じんせいはしりがき

中田の雑多日記

齟齬

齟齬

3月23日

 私は、毎週土曜日の朝、コインランドリーへ向かう。

私の部屋には洗濯機がなく、一週間分の洗濯物を洗う為に徒歩15分のここへ来る。

頑なに洗濯機を買わないのは、持つ必要が無いと考えていたからだ。

どうせ、ここからは直ぐに居なくなるからだ。

仕事の都合で来た土地で、その仕事も碌でもないクソだからだ。

柄にもない単純な言葉を心の中で巡らせていく、難しい言葉を使えば浅慮な奴らからは、実は愚鈍という私の本性を岩戸のように隠し、利口に見せ、そういった奴らは私を堅物といい避けていく。文章を誰でも読める形にするのが本当の利口な人間だというのに。

別に構わない私は馬鹿な癖に陽気に話すのが好きでなく得意でもない。だが、心の内を誰にも見られぬところで吐くのが好きだ。

スマホのワードアプリにとめどなく綴っていく。

そうこうする内に目的地に到着する。

先月から貼られた紙がある

「この度、コインランドリークロスロードは3/30に閉店します。長い間のご愛用頂き有難う御座いました」

無理に漢字を使っているな

いつものように洗濯物を洗濯機に投入し乾燥付き洗濯コース1,200円分の硬貨を入れ、蓋を閉めれば洗濯機がヴーヴーと輪舞曲を奏で、槽のホールで踊る。

良い喩えだ!と自画自賛する。

そして、コインランドリーの隅の机の上のコミュニティーノートを開く、3/20(水)希望の日を見つける。

そこには、いつもの丸文字で文章が書いてある。

「今週は、お客さんがいっぱい来て洗濯物が多かった、満員御礼ってやつ、でもお返事で決断しました、もうやめます。それに、もう少しでここも無くなり、ここでのやり取りもなくなってしまうんだ…ほんの少しの哀愁に浸ってしまう…そちらはどうですか?」

私は、3/23の日付を書き、3行の文を認める。

誰が書いているのかは知らないが、筆跡的に彼女だろうか、毎週水曜日が、お店が定休日のようで此処を贔屓にしているようで、ここ半年ほどやり取りをしていた。

誰も見ていない帳簿だと思って適当に文章を書いていたが返事が来るとは予想外で面白半分に返している。

近所にある喫茶店かレストランの給仕だろうか、テーブルクロスなどを洗いに来ているのではないだろうか。だが水曜日が定休の喫茶店もレストランなども結局見つけられず、結局、この地を発つ。

仕事を辞め地元に帰るのだ。しかしクソ労働は有給を許さず、何とか無理矢理だったが来週の水曜に一日だけ取れた。

水曜の理由はただ一つ、この給仕の顔を一目見てやろうと思ったからだ。

洗濯物もなしにコインランドリーを訪れようと思う私は傍から見れば滑稽かもしれないが、それでいい。

3行ばかりのコミュニケーションを面向かってしてやろう。

来週が楽しみだ。